実務翻訳講座担当の栗村先生に本音トークをしていただきました!

柳澤: 
今日はフリーランスの実務翻訳者であり、通訳者でもある栗村直美先生を迎えて
翻訳にまつわることをインタビューさせていただきたいと思います。
栗村先生は実務翻訳スクール.comの実務翻訳基礎講座の講師を担当されています。
先生、今日はよろしくお願いいたします。

栗村:
こちらこそ、よろしくお願いいたします。


【栗村先生の略歴】
   フリーランス通訳・翻訳者。
  4年間の社内通訳・翻訳者を経て米国モントレー国際大学院に留学。
  通訳・翻訳の修士号取得後帰国、フリーランスとなる。

  論文、契約書、マニュアル、ビジネス文書などの日英・英日実務翻訳を手がける。
  2005〜2011年、翻訳者養成学校で講師を務める。
  2007〜2009年 筑波学院大学 非常勤講師 「通訳の基礎」講座担当。



フリーランスの通訳・翻訳者として1999年より活動されている方です。
実力だけでなく、物腰のやわらかな穏やかな方です。

また、二人のお子様の母親でもあり、当社のコーディネーター全員が
心から尊敬する優秀な翻訳者さんです。

翻訳者になってよかったことは?

柳澤:
さっそくですが、実務翻訳者になってよかったことはなんでしょうか。

栗村:
はい。
よかったかどうかとは、もしかしてちょっと違うかもしれませんが、
翻訳って、技能職というか、職人芸のようなところがありますよね。

マニュアルがあってこの通りにやれば誰でもこういう品質のものができますよ、
というのではなく、一人ひとりの個人の腕だけで決まるというか・・・。

生み出したものが自分の芸術作品、とまで言ってしまうとまた少し違いますが、
思い入れや私の気持ちとしては、自分が作り出した作品だと思っています。

だから、それをお客様がある一定のお金を出して買ってくださるというのは、
やっぱり自分の腕を評価していただけたというか、気に入っていただけたというのが
直接実感できるお仕事なので、それがいつもうれしかったりします。

それは翻訳だけではないかもしれないですけど。

もし、その値段に合わなければ次回は買っていただけないので、
また同じお客様からご依頼が来ると、あの値段であの品質のものを気に入ってくださったんだなって
思うときはやっぱりやりがいを感じますね。
職人技かなって。

柳澤:
そうですよね。
私も翻訳コーディネーターとしてプロの方々の訳文を拝見しますが、本当に職人技だと思いますね。

栗村:
あと、やっぱりお客様にそれで喜んでもらえるというのは、大きいですね。
もう腕一本でという感じなので。
その分責任は重いけども、やりがいがある仕事だなと思います。

プロの実務翻訳者になる前に悩んでいたことは?

柳澤:
プロの実務翻訳者になる前はどんなことで悩んでいましたか。

栗村:
私は、ある財団法人にもともと勤めていたのですが、その中の人事異動で通訳、翻訳職に就きました。
一応試験はあったんですけども人事異動で、来期は通訳でというふうなことになったので。

その前から通訳、翻訳の仕事をすごくしたいし、憧れもあって、
それなりに勉強もしたりもしたんですけど、悩んでいたというよりは、
ある日突然試験を受けて合格できたので、当時、悩んでいたという記憶はないですね。

柳澤:
なるほど。
では、すぐに社内というか組織内で通訳者、翻訳者になったということですね。

栗村:
そうです。
通訳メインだったのですが、それに伴う翻訳作業もありました。

社内翻訳者のメリットとは?

柳澤:
実際にお仕事始められて困ってしまったこととか、戸惑ったこととかはありましたか。

栗村:
社内通訳者、翻訳者の利点なんですけど、組織の中で育ててもらえるんです。
最初は、必ず先輩の通訳者とか先輩の翻訳者がいて、
私が作った翻訳を先輩がちゃんとチェックしてくれて初めて外に出ます。

通訳も同じように職場の先輩についていって、先輩のパフォーマンスを見て学べます。
それから徐々に、「じゃあ、この部分だけあなたやってみなさい」という感じですね。

OJTで育ててくれるので、それはすごくよかったなあって思いますし、
ほかの方にもやっぱりおすすめしたいんですね。

いきなりフリーになって、最初のお仕事でつまずいてしまうと、
もう二度とお声がかからなくなって落ち込んで終わりっていうことにもなりかねませんから。

そうなると、「もう夢が終わっちゃった」となってしまうので。

その点、社内の通訳者・翻訳者なら、中できちっと育ててくれます。
最近はそういう余裕のある会社も少なくなってきたんですけど、もしチャンスがあればぜひ、
社内で1年、2年、まあ3年ぐらい修行を積むといいと思います。

外の世界に飛び出す前に、温室でだんだんだんだん大きくなって、
外の雨風に耐えられるようになってから外界に出ることができるので、
理想的なステップアップかなと思うんですね。

だから、そういう意味で私は、戸惑ったこともなかったし、
分からないときはすぐ隣に先輩がいて、どういうふうに言えばいいですかとか、
どう訳せばいいですかって聞けたので、それは本当によかったし、恵まれていたと思います。

柳澤:
確かにそうですね。

栗村:
はい。いきなり外の世界は、風が冷たいですよね。

柳澤:
いきなりフリーでやっていくということは、フリーのベテランの方々と同じ土俵に立つことになりますからね。

栗村:
そうですね。
やっぱり要求されるのはベテランのレベルになりますよね。
「あなたは新人だからいいですよ」なんて大目にみてくれませんし、
そんなことはやっぱりフリーでは通用しないので、そこは厳しいですね。
できれば、社内で経験を積めるようなチャンスがあるといいかなと思いますね。

実際に行っていた翻訳の学習の仕方は?

柳澤:
栗村先生はどんなふうに翻訳の学習をしていましたか。

栗村:
財団で(通訳・翻訳の仕事を)やっていたときはOJTなので、
もう、その仕事イコール訓練イコール学習っていうことでしたね。
とにかく実践で鍛えていただいたという感じですね。

その後、アメリカへ留学をすることにしたのですけど、
そこでは、今このスクールでやっているのと同じように課題が出て、
それを翌週までに訳して、先生に添削してもらって、講義で解説してもらうという、
それの、もう、ただただ繰り返しですね。

あとは、自分なりに本を読んでみたり、というのはもちろんありましたけれども。

柳澤:
たとえばどんな本で勉強しましたか。

栗村:
本も読みましたが、私はその留学のときに自分で義務づけていたのは、やっぱり新聞ですね。

とにかく新聞は、言葉遣いももちろんそうですが、内容もいろんな分野がカバーされていて、
しかも最新のトピックが取り上げられているので。

日英の新聞を毎日必ず読むようにしていました。
もちろん、全部はとてもじゃないですけど、無理ですが(笑)。

日本語に関してはとにかく一応全部は見て、英語は少なくとも1面と社説ですね、Editorialを読むと。
それをずっとやっていました。
やはり毎日やっていたので、新聞が一番多かったですね。

あと、やっぱり英語の語感を養うという意味では、新聞は練りに練られて、
きちっと分かりやすく書かれているのでいいと思います。

他方、例えば小説などはまた違っていますよね。
凝った表現が多いので、小説を読むと英語の読解力がつくと思います。

柳澤:
小説は確かに、難しいですね。
特に感情の描写なんかはニュアンスを読み取れなかったり、ストーリーについていけなかったり。。。

栗村:
なかなかね。
でも、お仕事しながら、あれしながらこれしながら英語の小説を読むなんていう場合は
ちょっと大変ですよね(笑)。

まあ、学生さんであればいいと思うんですけどね。
小説を読むと力は確実につきますからね。

柳澤:
新聞や小説を読むというのは、ずっと継続していたのですか。

栗村:
そうですね。
2年間の留学のときは、新聞はとにかく読んでいました。
小説や本は夏休みとかを使って。
学生だったので時間は割とあって、よく読みましたね、小説も。

プロの通訳・翻訳者のトレーニング方法とは?


柳澤:
現在行っているトレーニングはどんなものですか。

栗村:
そうですね。
今は仕事が途切れることなくいただいているので、その仕事がもうトレーニングの場ですね。
やっぱり実践に勝るトレーニングはないと思うので。

(勉強のための)課題をするのと仕事でやるのとではやはり、緊張感も責任感も全然違いますから。
実践は、日々緊張感をもって、姿勢を正して取り組まなければいけないので、一番の訓練になります。

それにプラスして、やはり新聞を読むことですね。
私にとっては、今でも欠かせない情報源であり、自分の語感を磨く材料でもあるので、
新聞は必ず読みます。
どんなに忙しくても読みます。

私は、日本の新聞は社説を音読しているのですが、
英語に関しては、英語のニュースを耳から入れるというのをやっています。

柳澤:
ちなみに、どんな英語のニュースを聞いているのですか。

栗村:
私が聞いているのは、BBCの英語のニュースです。
1回大体30分くらいですね。

本当は毎日といいたいところなんですけど(笑)、なかなか厳しくて。
でも2〜3日に1回は聞きます。

やっぱり耳から入れるってとても大事なんですね。
翻訳はどうしても読んで書くだけだと思いがちなんですが、
語感を身につけるには、やっぱり耳から聞いて口から出すことも大事だと思うんです。

脳のありとあらゆるところを使った方が体に染み込ませることができますよね。

柳澤:
なるほど。確かに、語感を養うには、読み書きだけでは片手落ちになってしまいそうですから、
耳と口もフル活用させることが大事なんですね。

プロのライフスタイルがどんなものか教えてください

柳澤:
では、次の質問ですが、どんなライフスタイルかを教えてください。

栗村:
そうですね。
フリーの翻訳者とお勤めで社内翻訳の方とでは、また違いますが、
私はフリーなので、大事にしていることは、規則正しい生活をするということです。

フリーランスだと、いつ寝ていつ起きても誰にも咎められないので、
どうしても生活が乱れがちなんですが、やっぱり自分の健康とか集中力を
考えるとよくないなと思います。

特に集中力は重要なので、睡眠はきちんと取らなければいけないと思っています。
ですので、できるだけ規則正しく、たとえ、その日外出する予定がなくても、
朝起きたら着替えるとか(笑)。
顔を洗うとか。

なるべくお勤めしている雰囲気で行動します。
朝6時半に起きて子どもたちを送り出した後、大体8時半ぐらいから仕事をスタートします。
その後お昼まで仕事をして、お昼はオフィスにいるような感じで1時間とか、
ちょっと長めに1時間半とかとります。

そして、また午後1時とか1時半からスタートして夕方の5時か5時半ぐらいまで仕事をしますね。
その後は家事があるので、夕食作ったりしながらお仕事は休憩します。

それから、夜の家事が終わって9時半頃からまた1〜2時間ほど翻訳をするというのが、
一番多いパターンですね。

寝るのはだいたい11時半とか12時頃です。
そのときの忙しさによっても違いますし、納期が迫っていれば夜中まで
やったりすることもありますが、なるべくその生活パターンを崩さないようにしています。

睡眠時間はなるべく削らなくていいような仕事量を取っていくっていうことも、
やっぱり気をつけています。

受けた仕事は100%責任を持ってこなさなければいけないので、
ちょっと眠かったからミスしましたっていうのは許されませんよね。
だからこそ、睡眠時間はできるだけ削らないということを心がけています。

仕事と家庭の両立について

柳澤:
では、どうやって家庭とお仕事を両立なさっているのですか?

栗村:
そうですね。
やっぱりフリーなので、時間は自分の裁量で自由に使えるというのが
いいところでもあり難しいところでもありますね。

私はお昼休みを1時間半ぐらいとるのですが、その間に気分転換を兼ねて
スーパーにお買い物に行ったり、買い物に行かない日はお家のお掃除をしたりとか。

このお昼のお休みでリフレッシュ兼家事ができるようにはしていますね。

ほとんど家にいるので、雨が降れば洗濯物も入れるし、
そんなに両立に悩むことは、今はそんなにないですね。

もちろん、子どもが小さいときは大変でしたけど、今はもうルーティーンになっているので
大丈夫ですね、突発的なことがない限り。

フリーランスになって初めての仕事はどんなものでしたか?

柳澤:
覚えていたら教えていただきたいのですが、フリーになって初めてのお仕事はどんなものでしたか。

栗村:
フリーになって初めての仕事は、大学院を卒業した直後に同じ大学院の卒業生の先輩の方から頂きました。
アメリカ人の画家でトーマス・キンケードさんという、今年(2012年)お亡くなりになったのですが、
有名な油絵の画家さんがいらっしゃって、その方のギャラリーに置くパンフレットの和訳でした。

そんなに量は多くありませんでしたが、初めて翻訳でお金を頂戴した経験でした。

柳澤:
やっぱり感慨深いものですか。

栗村:
うーん・・・ただ、そのとき私は本当に自信がなかったんですね、自分の和訳に。

和訳をやったはいいけれど、これでいいのだろうかと。
自信が全くなかったので、(大学院の)同級生に、ちょっと見てもらったら、
真っ赤っ赤に手直しが入って返ってきました。

ここはこう言った方がいいんじゃないのとか、いっぱい添削してもらって、結局それを出しました。

だから、「あー、やっぱり、一人で和訳をしてお金を貰っていくのはちょっと難しいかな」
と正直そのときは思いました。

その同級生はとっても和訳の上手な、大学院のクラスの中でもとても上手な同級生だったんですね。
だから彼女に見てもらったら安心だと思ってお願いしたので、
真っ赤っ赤になって返ってきたということは、私の和訳はやっぱり不十分だったんだなと思いました。

その彼女の目から見ると、「これはちょっと・・・」という作品(訳文)だったと思うので、
「あー、大丈夫かな。これからフリーでやってけるのかなー」と不安でしたね。

柳澤:
そうした不安なお気持ちは、しばらくお持ちだったんですか。

栗村:
そうですね。
その次の仕事もやっぱり大学院の先輩に紹介していただいて、先輩と一緒にやるという仕事でした。

先輩と半々で訳して、最終チェックはその先輩がしてくださったのでよかったなと思いました。

英訳のときはネイティブのチェックが入りますし、和訳のときは、エージェントさん経由ですと、
コーディネーターさんとかチェッカーさんが確認してくれます。

けれど、クライアントさんから直接いただいたお仕事は、
最初から最後まで全部ひとりだけなので、今でも結構不安なことがありますね。

やっぱり誰からのチェックも入らない仕事ですと、クライアントさんに送った後も
本当によかったのかしらと考えてしまうということは、今もありますね。

柳澤:
やっぱり直接のお客さんをお持ちの方の場合、エージェントを通してしかお仕事をされてない方とは
また違う緊張感をお持ちなのでしょうね。

栗村:
エージェントさん経由のときは逆に、甘えてしまうというか(笑)。
私のあとに、チェックしていただけるので、これでどうですか、みたいな感じもあります。

クライアントさんと直接の場合には、校閲を自分でやるのでやっぱり見直しの回数が
最低1回は増えます。
それを最終作品として出すことになりますので、チェックはいつもより厳し目になりますね。

知人からの仕事の紹介は多いですか?

柳澤:
大学院の先輩からのお仕事から始まったそうですが、お仕事の紹介は多いのですか。

栗村:
私は飛び込みのトライアルは実は1回もやったことがなく、すべて紹介なんです。
だから翻訳者としてのネットワークは本当に大事だと思うんですね。

全然知らない翻訳会社さんに電話やメールをして、トライアル受けさせてくださいと
お願いしたことは、今まで一度もないんですよ。

柳澤:
そうなんですか。

栗村:
これまではすべて、ここのトライアルを受けてみない?と推薦をいただいたり、
紹介の声をかけてもらったり、そういう流れで始まっているので、
最初からある程度の信頼関係があってその後のやり取りもスムーズなんですよね。

どこの馬の骨ともっていう人が来ると、エージェントさんもやっぱり心配でしょうけれど、
紹介の場合、「あ、あの人の紹介ならある程度大丈夫かな」と思ってもらえるので。

柳澤:
そうですね。
確かに、そうした側面はありますね。

飛び込みではないにしても、トライアルを受けて最初のお仕事を獲得するまでは
それなりに大変ではないかと思いますが、いかがでしたか。

栗村:
そうですね。
トライアルを受けるにせよ、紹介で入るにせよ、最初のお仕事を獲得するまでは結構大変だと思います。

だからこそ、私は人脈といいますか、ひととひとのネットワークはすごく大事だと思いますね。

でも、トライアルで落ちたこともあるんですよ。
1回だけですけど。

それも大学院の、実は恩師からの紹介で、トライアル受けてみたらって
一応推薦してくださったんですね。

先生のところに、エージェントさんから卒業生の方でどなたかいい翻訳者さんいらっしゃいませんか、
という声がかかったときに、きっと私のことを思い出してくださって、
紹介してくださったんです。

それなのに見事に落ちてしまって、本当に申し訳ない(笑)。

やっぱりそれはショックでしたね。
本当にショックでした。

あとから、お手紙で、メールじゃなくて、お手紙で、不採用でしたという通知が届いたのですが、
その不採用通知は今でも、自分の戒めとしてずっと持っています。

やっぱりそのときの気持ちは大事にしなきゃいけないなと思うので、今でもずっと持っています。

柳澤:
いろいろありますね。

栗村:
(笑)。そんなスムーズにはなかなかいかないですね。

実務翻訳者に求められるスキルとは?


柳澤:
実務翻訳者に求められるスキルは、どんなものがあると思いますか。

栗村:
そうですね。
まずは、日本語と英語の読解力、運用力、表現力。

それぞれにおいて力があるのはもちろん大前提になりますが、
この力はずーっと磨き続けていくものなので、最初から完璧であるわけではありません。

が、少なくとも基本的な力は必ず持っていて、そこから仕事を通して
それをどんどんどんどん磨いていく必要があります。

プロであるなら、仕事に必要とされる最低限の運用力は当然持ち合わせていないと
始まらないのですが、それにプラスしてやっぱり好奇心ですね。

翻訳者は、新しいものを知りたい、もっと追求したいという探究心、
それと、細部にまできちっとこだわり、もちろんケアレスミスをしないという緻密さも求められます。

大雑把な人は向かないですね。
「あ、もう、ここはこれでいいか」と思ってしまう人は、どう考えても向かないし、
多分そういう方は翻訳者の仕事内容は好きじゃないかなと思うんです。

翻訳者の仕事って地味ですからね、本当に(笑)。

よく「翻訳者」という響きに憧れる方はいらっしゃいますけれど、
仕事自体は本当に地味な細かい、重箱の隅をつつくような作業なので、
そこに喜びを見出せる方や、緻密な方で、忍耐力のある方は向いているように思います。

とにかく、忍耐力、集中力、そして健康。
健康はどんな仕事でも大事ですけども。
そんなふうに思います。

柳澤:
なるほど。
そうですね。
語学力や忍耐力、集中力はもちろんですが、健康もやっぱり大事なんですね。

栗村:
大事ですね。
健康は翻訳者だけではなく、どの仕事でも同じでしょうけれど、
時にはやっぱり徹夜もありますから。

特に最初の頃はね。
そんなにしょっちゅうお仕事をいただけないので、声をかけていただいたお仕事は
なにがなんでも納期までにきちっとやろうと思うと、すごくきついスケジュールでやらざるを得ません。

下手すると、徹夜は何日か続く可能性もありますが、そこを乗り越えないと、
安定したお仕事を頂ける状態にたどり着けないとも思うので、やっぱり健康は必須ですよね。

健康のためにやっていること

柳澤:
そういえば、栗村先生は気力には自信があるとか。

栗村:
私、気力には結構自信があります。
でも、やっぱり、翻訳のお仕事が好きだからですね。
そもそも翻訳が好きじゃなかったら、やれないと思います。

私は健康のためにマラソンをやっているのですが、でも本当はマラソンは嫌いなんです。
走ることが嫌いなんですが、健康維持のためと思ってやっています。

翻訳は本当に座りっぱなしなので、下手すると、1日7〜8時間座り続けて、
万歩計見たら夕方なのに35歩だったみたいな(笑)、悲しい結果になって。

それが何年も続くとやっぱりよくないと思うので、意識的に走るようにしてるんですね。
そのときに目標があった方がいいかなと思っていまして。

翻訳のように好きなものは目標がなくても続けられるのですが、
嫌いなものは目標がないと続かないので、「マラソン」というのを入れたんですね。

今でも走るのは実は、好きじゃないんです。
走らなくても健康を保てるのであれば、私は走らない選択をします。

柳澤:
分かりました(笑)。

栗村:
マラソンはそういう理由なんです(笑)。

翻訳は頼まれなくても好きだからトレーニングもやり続けられますが、
マラソンは同じ効果がサプリで得られるなら、私はサプリを選択します(笑)。

プロの翻訳者になるための心構え

柳澤:
プロの翻訳者になるために心構えというとどんなものがありますか。

栗村:
そうですね。
プロの翻訳者というのは、やはりボランティアではないので、
お客さまが、このコスト低減の折に、お金を出して自分の翻訳を買ってくださる。
その意識は絶対持っておかないとだめだと思うんですよ。

つまり、手を抜いちゃいけない、ということに尽きると思います。

最初のうちは実力がないのは当然だけれども、少なくとも自分の持っている100%の力を
出しきるのが大事だと思います。

ミスがあったりしても、最初の頃は仕方がないのでしょうけれど、
やっぱり常にお金を頂いているんだと自覚を持つことは大事です。

ボランティアでやっているわけでもないし、自分の勉強のためにやってるわけでもない。
お客様は訳文をお金を出して買ってくださっているんだという意識は常に持って、
自分が持てる限りを出しきるという気持ちを持っていただきたいですね。

手を抜かず、誠心誠意、1個1個の仕事に取り組む姿勢は、本当に大切だと思います。
それができていれば、少しくらい実力が伴わなくても、必ず次につながると思いますし、
お客様も多分、来てくださると思うんですよね。

柳澤:
そこら辺は最初の職人技というお話と通じるものがありますね。

栗村:
そうですよね。
それに通じますね。

だって、プロの翻訳者さんはいっぱいいるわけですから。
本当にたくさんの翻訳者さんが世の中にいるわけですから。

それをあなたに、まあ、最初のうちは「あなた」じゃないかもしれないですけど、
指名されたからには全力でその期待に応えるというのは大事です。
気持ちとしてね。

やっぱり、その仕事に対してお金を貰うわけですから。
実際に応えられるかどうかは別としても、やっぱり気持ちとしては、
そこはしっかりと持っておかなければいけないかなと思いますね。

納品の際に気を付けていることは?

柳澤:
納品の際に特に気をつけていることは何かありますか。

栗村:
納期を守る。
これは大原則です。

どうしても突発的な何かで納期が遅れることもあるかもしれませんが、
でも突発的なことがあっても納期は遅れてはいけませんよね。

私は大体納期のかなり前に仕上げるようにしています。
少なくとも大体1日ぐらいは余裕があるような感じで、仕事を受けるようにしています。

でも最初の頃はそうも言っていられないので、来た仕事はとにかく何でも受けるという感じでした。
納期を守るためには何日徹夜してでもやり切る。
納期は絶対はずさないっていう気力で乗り切りました。

そこはもう、絶対条件ですよね。

柳澤:
そうですね。
エージェントサイドとしてもそのつもりでスケジュールを組んでますから。

栗村:
(笑)。そうですよね。
やっぱりね。

依頼されるお客様の側もそうだと思うので、翻訳者の個人的な事情があったとしても、
そこはやり切るということでしょうかね。

柳澤:
そこら辺がプロ意識なんでしょうね。

栗村:
そうですね。
でも私も、納期を守れなかったことが一度だけあります。

義理の母が倒れたのですが、そのときに翻訳の仕事を抱えていて、結局は終えられなかったんですよね。

ただ、納期に遅れた、というのではなくて、ここまでは見直してあるから、
ここまでの翻訳はOKだけどその続きはもうどうしても無理だということで、
エージェントさんにお願いして別の翻訳者さんに引き継いでもらった経験が1回だけありますね。

まあ、長くやっているといろいろありますが、そのときまでに信頼関係ができていれば
何とかしてもらえると思います。

最初のお仕事でそんな事態に陥ってしまったら、本当に不幸ですけれど、
それまでの信頼関係があればエージェントさんも分かってくださるので。

納期遵守は絶対とはいえ、そういうのは大丈夫かなと思います。

仮に、自分が交通事故に遭ってしまった、やっぱりどうしようもないですよね。
でもそうなったときに、きちっと対応できる関係を作っておくというのも大事だと思います。

通訳者と翻訳者に求められるスキルの違いとは?

柳澤:
通訳者さんに求められるスキルと翻訳者に求められるスキルの違いはどんなものがありますか。

栗村:
さっき実務翻訳者に求められるもということで、
日本語と英語の読解力、運用力、表現力というものをあげました。

ここは通訳も翻訳も共通なのですが、やっぱり全然違う職業かなと、両方やっていると思いますね。

通訳というのは、瞬時の判断力がすごく要求されるので、まごまごしているとだめなんですね。
もごもごっとちょっと口ごもっただけでお客様は、大丈夫この通訳と感じてしまい、
通訳に対する信頼がなくなるので、その一瞬一瞬に自分ができる最大の判断をします。

そして、いったん判断したら、迷わない。もうその判断を信じきって最後まで突き進みます。
一回嘘ついたら、嘘突き通すくらいの覚悟ですね。

けれど、翻訳者は自分の判断を疑うといいますか、思い込んでしまうとドツボにはまるので、
本当にこれでよかったんだろうか、この訳でよかったんだろうか、もっといい訳がないだろうか、
と最後の最後まで迷いに迷います。迷い迷って、最後に決めます。

だから、ひとつひとつの判断をする時点が全然違います。

通訳者は最初に判断をして、迷わず突き進む。
でも翻訳者は、迷いに迷って最後に判断すると。だから求められるものもやっぱり違うんですよね。

柳澤:
なるほど。
そうなると、通訳のお仕事と翻訳のお仕事をされているときでは、ずいぶん違うんですね。

栗村:
人格が変わりますね(笑)。

通訳は、あんまり緻密過ぎて完璧さを求めるとだめなんですよ。
この単語じゃない、あれじゃない、これじゃないって頭の中でやっていると、
そこは空白の何秒間になってしまうので。

通訳学校では2秒あいたらダメと言われていました。
ですので、2秒以内にすぐ出すという訓練をするんです。

本当に瞬時に、パパっと判断して、どんな単語から始めてもセンテンスを終えられるようにします。
言い換えなしで。

つまり、「あ、この単語で始めたけどちょっとだめだった」と思って言い換えたりすると、
通訳はだめなんです。

いったんこの単語で始めたらその単語で最後まで繋げるという訓練もありますし、
やっぱりその瞬時の判断力が求められますね。

なので、大雑把な人の方が(笑)、向いているかもしれません。
いつまでもくよくよして、あそこはあの単語じゃなかったなんて考えていると、
その後のパフォーマンスに響くので、もう終わったことは忘れます。

やはり求められる精神状態がまったく違いますね。
だから通訳と翻訳のどちらもやると、そういう意味では楽しいと思います。

翻訳だとどんなに難しい仕事でも、ドキドキしませんよね。
緊張でキーボードを打つ手が震えるとかないじゃないですか。
どんなに難しくても、えー、困ったなあとは思うけれども、
緊張のために手が震えるなんてことはありません。

けれども、通訳は、例えば1,000人のお客様がいて、その前でやるとなると
多少手も震えたり声が震えたりと、そういう心の変動が大きいんですよね。

翻訳は一定なので、全然気の持ち方が違うんですね。

両方やると、人生楽しいかな(笑)って思いますね。

ですが、緊張状態とかが嫌いな方は通訳者に向かないので、どちらかを選択される方すごく多いですよね。

両方というのは結構バランスとるのも難しいですし、スケジュール管理も結構難しいので、
嫌がる方が多いです。

私の場合は、刺激のある一日とじっくりにらんでとことんまで追求する一日がある方が
自分の状態がいいので、その選択をしています。

通訳者になるか翻訳者になるかというのはライフスタイルの選択ですね。
語学に興味があるけれど、どちらにしようかと選ぶ場合には、
やはりライフスタイルと精神的に何を求めるか、で決めるといいと思います。

トライアルの審査員としてチェックしているポイントは?

柳澤:
トライアルの審査員もされているそうですが、審査員として提出された訳文をご覧になるとき、
どんなポイントを見ていますか。

栗村:
そうですね、表現がぎこちないとか、そういうところは経験の浅い方は仕方がないので、
それよりもきちっと辞書をひいているかどうかですね。

辞書をひくことに関して、手を抜いていないかどうかという点を見ます。
知っている単語だからと、辞書をひかずにやってしまって、間違うパターンが結構多いので。

トライアルはそんなに長くないのですから、とにかく一語一語すべて辞書をひくぐらいの
心構えでもいいと思うんですね。

辞書を丁寧にひいているかっていうことと、
丁寧にきちっと仕事をしているか。
隅々まできちっと見ているかということ。
そして、もちろんケアレスミスですね。

当然のことながら、トライアル原稿は短いですし、試験だとわかっているわけですから、
そこでケアレスミスは絶対あってはいけないですよね。

表現が多少ぎこちないのは、その後の訓練や実践で、少しずつ直りますから。
でも、あまりにもぎこちないのは困りますけど(笑)、まあ、許容範囲であれば、OKかなと思います。

それより、やはり辞書をきちんとひく丁寧な方はその後伸びると思います。
将来、伸びる可能性があるかどうかというのも、合否の大きな要素にしています。

もちろん、それはトライアルを依頼してくださる翻訳会社さんと一応相談した上での
自分なりの判断なんですけどね。

たとえば、今すぐ使える方でないとダメという方針ですと、
そういう伸びしろがあるかどうかはあんまり考えている余裕がない状況ですよね。
そこはどういう人を採用したいかという翻訳会社さんの意向に合わせます。

とはいえ、個人的にはやっぱり、伸びしろの有無はすごく大きいと思うんですよね。

柳澤:
なるほど。
そういうところがポイントになるんですね。
では、すばらしいなと思う訳文はどんなものですか。

栗村:
そうですね。
本当にいいなあと思うのは、やはり日本語の流れがスムーズなものですね。

読んでいて、これが翻訳物だとまったく感じさせない、日本語で書き起こしたような和文ですね。
私自身もそれを目標にしています。

なかなかトライアル段階ではそういう訳文には出会えませんが、
日本語が自然に流れているというのは、その方の持っている日本語運用力が高いということですので、
そういうときはいい点をつけますね、やっぱり。

柳澤:
トライアルを受けられる方は、経験が浅い方が多いのですか。

栗村:
多いですね。
圧倒的に多いですね。

柳澤:
経験豊かな方は受けることはあんまりないということでしょうか。

栗村:
うーん。
そうでもないかもしれませんが・・・。

私もどういう方がトライアル受けているのかというのは知らないんです。
バックグラウンド情報がないままに訳文だけを単純にチェックするので、
その方の経験がどの程度なのかは確認していません。

が、訳文を見ておおかた想像はできます。

実務翻訳者の育成の際の指導方針について

柳澤:
実務翻訳者の育成の際の指導方針についてお聞かせください。

栗村:
スクールの授業の中では、いろんな選択肢を皆さんにお見せして、
考える習慣をつけていただきたいと思っています。

あ、こういう訳もできるよね、こういう訳し方もあるよね、というのをできるだけお見せしたいですね。
それがやっぱりスクールのいいところだと思うんですね
添削だとその方の表現が合っているか間違っているかだけになってしまうので。

そうではなくて、「あ、こういう解釈もある」とか「こういう訳もいいね」と紹介していきたいですね。

翻訳は一つの正解、必ずこれでないとダメというのがあるのではなく、
いろんなオプションがある中で、自分はどれを選ぶかということなので。

オプションが思いつかないと、最後の選択ができないんですよ。
これしか思いつかないという場合には、もうそれになっちゃうので(笑)。

そうではなくて、幾つかオプションがあるけれども、私はこういう理由でこれを選ぶ、
というのがいいと思うんですよね。

そのためにはやっぱり、スクールの授業の中でこういう考え方もできますよね、
ということをできるだけ提示したいですね、私は。

和訳の課題では訳例を見せないというのは、それもあるんですね。
訳例を見せてしまうと、先生が見せてくれた訳例だからこれが100%正しいんだと思われてしまいがちなので。

でも、そうではなくて、いろんなオプションがあるんですよ、ということ、
ほかの訳語でも前後と合っていたらOKなんですよ、ということをやっぱりお伝えしたいですよね。

それが翻訳の難しいところでもあるし、同時に、その人にしかできない、職人芸ですよね。
それが翻訳の楽しさ、面白さだと思うんですね。

翻訳スキルが伸びそうな方はわかりますか?

柳澤:
なるほど。
確かにそうですね。
では、添削指導をしているときの指導方針をお聞かせください。

栗村:
それも同じなんですが、特に和訳に関しては、それぞれの方に癖がありますので。

その方が30年とか40年とか50年とかそれまでの人生を生きてきて身につけた日本語なので、
それをこう変えなさいというのはなかなか難しいんですよね。
身についてしまっているものですから。

だから、なるべくその方の文体や長所を生かしつつ、
でもここに気をつけるともっといい、自然な訳になりますよとか、
精度があがりますよとか、そういうふうなアドバイスをできればいいかなと思ってやっています。

柳澤:
添削をしていて、どんな方が伸びそうとかわかりますか。

栗村:
そうですね。
やっぱり自分が考えて一生懸命作った訳文に赤が入るのは、勉強にもなりますが、
ある意味ショックですよ。

「えー、あんなに考えたのに、これだめ?」って。
でも、ショックではあるけれども、やはりそれを受け入れられる素直な方は伸びると思います。

その方なりの主張があってそういう訳になったのですから、
「私はこう考えたんです」と反論してくださるのはもちろんOKですし、歓迎します。

いろいろとやり取りがあって最終的に落ち着いたら、いったんそれを受け入れて、
次に同じような場面でそれを使える人は伸びると思います。

あのとき先生にこう言われたから、じゃあ、これで今度やってみようと試せるといいですね。
試してみて、それが使えるようになると、その方に力がつくので。

何回も同じところをミスしてしまったり、ミスというか、
また前回と同じコメントをしなければいけないなっていう方もいらっしゃるので。

やっぱりコメントがついていたり添削されていたりする箇所をしっかり見て、
自分の意見がある場合はもちろんそれを言うと。

納得した場合にはそれをきちっと受け入れて、次に使うということですよね。
それを繰り返していけば伸びると思います。

柳澤:
なるほど。ありがとうございました。

英語の学習方法についてのアドバイス

柳澤:
学習方法で結構悩まれている方は多いようで、相談がよくあります。
何かアドバイスをいただけますか。

栗村:
学習方法ですか、難しいですね。
即効性のあるものってやっぱりないんですよね。

翻訳は言葉を扱うものなので、何かのテクニックを覚えれば上手くできるというものでもありませんし。
もちろん、ある程度のテクニックはありますけども、最終的には自分の語感の勝負になってくるので、
そこを磨いていくしかありませんから。

私もまだ磨いてる途中ですし、せっかくがんばって磨いても、磨き続けないとさびてしまいます。
とにかくインプットを増やすということは大事ですね。

たくさん読んで、たくさん聞く。それもボーッと読んだり、
ボーッと聞くのではなく、能動的に読むことですね。

きちっと意味を理解しながら読む。
自分の中で意味を確認しながら聞く。
そして、それを口に出して言ってみる、書いたものを音読してみる、ということも有効です。

五感を使って、なんとか体にこう染み込ませるという感じですかね。

ただそれは、目に見えて、「あ、力がついたわ」というものではないですし、
その過程が長いので途中であきらめがちなんですが、
でも、やっぱりそれしかないかなと思います。

今でも私もやっています。
やらなくなったらそこでさびてしまうので。
難しいことですけどね。

柳澤:
やっぱりそうですよね。

栗村:
まあ、ある程度はテクニックもあります。
たとえば、無生物主語の訳し方とか。

そういうことはスクールの授業とか、翻訳の仕方の本が出ているので、
そういうものから学ぶことができると思います。

ですから、そうしたテクニックは比較的短時間で身につくとは思うのですが、
プロの翻訳者としての最終的な勝負はやっぱり自分の語感なんですよね。
ほかの人と差をつけるという意味では。

だから、そこはなかなかね、一番難しいところですね。

柳澤:
ありがとうございます。
翻訳の基礎的な部分についてはいかがでしょうか。

栗村:
やっぱりまず、文法はマストですね。

日本語の文法はいいかもしれませんが、英語の文法はとにかく徹底的にマスターすることです。
まずはそれですよね。

それができないと、和訳も英訳も当然ながらできません。
文法はとにかく徹底的にやるということですね。
それが基礎になって、後々、読解力と表現力が伸びますから。

柳澤:
基礎が一番難しいですね。

栗村:
そうですね。
基礎をマスターしたその後の道のりも本当に果てしなくなる。
ここまで来たからOKではないと思うんですよね。

言葉はやはり時間とともに変化していくものだし、新しい言葉が生まれたり、
新しい技術が生まれるとそれに対するネーミングは出てくるので、
常に情報収集して新しい言葉にアンテナを張っておかなければなりません。

やはり勉強好きな人でないと、翻訳者を続けるのは難しいですね。
知らなかったことを知って嬉しいと思える人がいいかなと思いますね。

プロの翻訳者を目指している方へのメッセージ

柳澤:
では、最後になりますが、プロの実務翻訳者を目指している方にメッセージをお願いいたします。

栗村:
何よりもまず、翻訳とはどういう仕事なのかをよく考えて、
先ほどのライフスタイルにも関係しますが、自分が果たして本当に翻訳をやりたいのか
というのを、じっくり考えてほしいですね。

翻訳一本で翻訳者という職業を選ぶと、本当に1日何時間も
パソコンの前にずーっと座りっぱなし、それが何日も何日も何日も何日も続くと。

翻訳一本でやっていくということは、そういう生活を目指すことになるわけですから、
そういう生活に耐えられるかどうか。

というよりは、耐えられるかどうかではなく、そういう生活を楽しいと思える方でないと
辛くなってしまいますよね。

やっぱりやっていて楽しくないことは続かないし、
楽しくないと自分でどんどんやろうという気力にもつながらないので。

まずは、じっくり考えてほしいと思います。

それでもし、やっていて楽しい、何時間でもやっていたいと、
本当に翻訳の作業そのもの、つまり、翻訳のプロセスを楽しめるかですよね。

単に英語にちょっと訳してかっこよくできたわ、というようなものではなくて、
一つの単語を探求していく作業を楽しめるかどうかだと思います。

それを楽しいと思えれば、翻訳の勉強は続けられるし、そうするとちゃんと伸びるし、
そうしたらお仕事が来てその後もずっと成長し続けられるということになると思います。

そういうライフスタイルを楽しめるとすごくハッピーな翻訳者生活だと思うんですよ。
最終的な自分の将来のイメージを描いて、自分がその生活を手に入れたときに
楽しいと思えるのであれば、邁進した方がいいですね。

逆に、そこに迷いがあるのなら、翻訳にこだわらずに、英語を使う道は
いろいろありますから、いろんな職業の選択を考えて自分が一番楽しいと思える道で
食べていけると人生はハッピーかなと思います。

最終的には、翻訳者という職業の選択になりますが、もし翻訳者になりたいと
思えるのであれば、翻訳者になる道は幾つもあるし、勉強方法もいろいろあります。

ですから、その第一歩を踏み出すときに、考えてほしいんですよね、長い道のりですから。

本当に翻訳者になりたいのかどうか、ということを。
やっぱり好きでないと、途中でやめてしまうことになるかなと思うので。

柳澤:
確かに。
エージェントとして依頼する立場からみてもそう思います。
翻訳者さんに原稿のタイトルをお伝えして、「うわ、面白そう!」とおっしゃっていただくと、
それだけで嬉しいものですから。

栗村:
そうですね。
ありますね。
タイトル聞くと大体イメージがわくから、あ、それやりたいって。
逆に、苦手なものだったりすると、一瞬無言になるときありますよね。
電話で。

柳澤:
やっぱり。

栗村:
え、って一瞬ひるみますから。
それで、実は今忙しくてとか言い訳しつつ、タイトル次第で決めたりして(笑)。

柳澤:
なるほど。
そうなんですね。
下手にタイトルは言わないほうがいいと(笑)。
勉強になりました。
本日はどうもありがとうございました。

栗村:
ありがとうございました。

(終了)

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